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山形地方裁判所 昭和39年(ワ)123号 判決

原告 鈴木小太郎

被告 結城善男

主文

被告は原告に対して金四十五万三千五円及び之に対する昭和三十九年五月二十八日より完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は原告に於て金十五万円の担保を供するときはその勝訴部分に限り仮に執行することが出来る。

事実

原告訴訟代理人は、被告は原告に対して金四十六万八千四百二十七円及び之に対する本訴状送達の翌日より完済に至る迄年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とするとの判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一、訴外山形信用金庫は、被告に対し昭和三十五年三月十一日手形貸付をもつて金三十五万円を貸与し、同年同月九日訴外深瀬正夫は訴外金庫に対し右消費貸借上の債権を担保するため右金額を極度額として自己所有の、

(一)  山形市下山家町字西川原十七番地、宅地百八十六坪(以下、本件土地)、

(二)  同所同番地所在、家屋番号百八十五番の二、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建居宅兼物置、建坪九坪五合外二階六坪五合、付属建物コンクリートブロツク建亜鉛メツキ鋼板葺平家建便所兼物置二坪九合一勺(以下、本件建物)、

につき根抵当権設定契約を締結し、その設定登記手続を経由した。

二、訴外高橋ヨシは、本件土地建物につき昭和三十六年九月二十一日代物弁済を原因として所有権を取得し、同年同月二十二日その旨の登記手続を経由し、訴外高橋は更に原告に対し昭和三十九年二月三日本件土地建物を譲渡し、同年同月五日その旨の登記手続を経由した。

三、訴外金庫は、前記根抵当権の実行のため本件土地建物について競売の申立をなし、山形地方裁判所は昭和三十八年十二月六日競売開始決定をなした。

四、原告は、代理人訴外高橋ヨシを介して訴外金庫に対し、昭和三十九年二月十三日本件土地建物の第三取得者として被告のために第一項記載の元金及び損害金その他の費用計金四十六万八千四百二十七円(内訳は別紙目録記載の通り)を代位弁済し、被告に対し右金員についての求償権を取得した。

五、よつて原告は被告に対し、金四十六万八千四百二十七円及び之に対する本訴状送達の翌日より完済に至る迄民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と陳述した。立証〈省略〉

被告は、原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として、請求の原因第一、三項は認める、同第二、四項は不知、被告は、訴外金庫より原告主張の金三十五万円を借受けるにつき、訴外深瀬正夫が被告のため物上保証人となつたので、同訴外人に対し訴外金庫に返済して貰うために昭和三十五年十月二十二日金十五万円、同年九月二十七日金二十二万円、合計金三十七万円を支払つている、よつて本件の金員は訴外深瀬に対して請求すべきものであるから、被告は本訴請求に応ずべき義務がない、と陳述した。立証〈省略〉

理由

請求の原因第一、三項の事実は当事者間に争がない。

よつて案ずるに、公文書であることにより真正に成立したものと推定される甲第四号証の一、二及び原告本人尋問の結果によると、請求の原因第二項の事実を認定することが出来、又、成立に争なき甲第一乃至第三号証及び原告本人尋問の結果によると、請求の原因第四項の代位弁済の事実を認定することが出来る。之に対し、被告本人尋問の結果は右認定を左右するに足りず、他に之を覆えすに足りる証拠は存在しない。

そうだとすると、原告は所謂担保不動産の第三取得者であつて、被担保債権を弁済しないときは債権者より執行を受けて担保不動産の所有権を喪うおそれがある地位にある者であるから、その被担保債権の弁済をなすにつき民法第五百条に言う正当の利益を有する者に該当することが明らかである。従つて、原告が抵当債権者である訴外山形信用金庫に対して別紙目録記載の金員を支払い、以つて本件土地建物に関する被担保債権を弁済したことにより、原告は同法同条に基づき、求償をなし得る範囲内に於て当然訴外信用金庫に代位し、債務者である被告に対し求償権を取得したものと言わねばならない。

そこで進んで、原告の取得した求償権の範囲について審究するに、法定代位による代位者と債務者間の求償の範囲は、弁済者と債務者との関係によつて定まるものであるところ、弁論の全趣旨によれば、本件に於ける原告の弁済は債務者の委託を受けない代位弁済であると認める外はないので、原告は被告に対し事務管理の費用償還請求としての求償権を取得したものと言うべきである。而して、担保不動産の第三取得者が被担保債権を代位弁済した場合には、代位者は債務者に対して被担保債権弁済額の全額について代位出来ると考えるのが相当であるから、原告は、別紙目録記載の金員の内、手形貸付元金及び約定遅延損害金については当然被告に求償し得るものと言わねばならない。然し、同目録記載の金員の内競売費用に関する分は、物上保証に供された担保不動産の第三取得者である原告が、抵当債権者である訴外信用金庫の本件土地建物に対する追及を避け、その所有権を保存するために支出した費用であつて、かかる費用は、物上保証人と債務者との間に於ては民法第三百五十一条、第四百五十九条等により求償権の範囲となり得るが、物上保証人より担保不動産を譲受けた原告と債務者である被告との間に於ては、被告の債務の代位弁済に関する有益費であるとは認め難いものであるから、原告が本件土地建物の前主に対し求償権若しくは損害賠償請求権を行使するか、或いは本件土地建物の売主に対し民法第五百六十七条第二項に基づいて抵当権者の競売を阻止するに出捐した金員としての償還を請求するは格別、債務者である被告に対して直接求償することは許されないと考えるべきである。又、同目録記載の金員の内火災保険料立替金及び右質権設定確定日附料の分は、何れも該保険料の負担者であるべき本件土地建物の所有者又はその前主と訴外信用金庫との間に於て清算されるべき性質の金員であつて、本件土地建物によつて物上の保証を受けている債務者の被告が支払うべき金員ではないと考えられる上に、本件の代位弁済に関する有益費に該当するとも認められないので、前同様直接被告に対して求償することは許されないものである。そうだとすると、原告の主張は、別紙目録記載の金員の内、手形貸付金及び約定遅延損害金に関する部分は理由があるが、その余は失当として棄却を免かれない。

ところで被告は、被告が物上保証人の訴外深瀬正夫に対して金三十七万円を支払つているので本訴請求に応ずべき義務がないと主張するが、仮に被告主張の通りであるとしても、右金員の支払は債権者である訴外信用金庫に対する弁済ではないのであるから、主張自体失当であつて原告の請求を排斥すべき理由にならない。その他、被告が原告の請求を免かれるに足りる主張立証は何等存在しない。

果して然らば、被告は原告に対し、金四十五万三千五円及び之に対する本訴状送達の日の翌日であること記録上明白な昭和三十九年五月二十八日より完済に至る迄民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。よつて、原告の本訴請求を右の限度に於て正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条を、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用した上、主文の通り判決する。

(裁判官 石垣光雄)

別紙 目録

一、手形貸付元金 金三五〇、〇〇〇円

一、右に対する利息金(但し、昭和三十七年四月三十日より昭和三十九年二月十一日迄日歩金四銭五厘の割合による訴外金庫と被告間の約定遅延損害金) 金一〇三、〇〇五円

一、競売費用 金一四、二三七円

一、火災保険料立替金 金一、一五五円

一、右質権設定確定日附料 金三〇円

合計 金四六八、四二七円

以上

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